脂漏性皮膚炎の原因

脂漏性皮膚炎の原因
脂漏性皮膚炎の原因は未だ完全に分かっていません。

しかし、世界中で様々な調査・研究が行われた結果、 幾つかの有力な仮説が導き出されています。

ここでは、これら脂漏性皮膚炎の原因について、 紹介しています。


原因

脂漏性皮膚炎の原因は3つに分類されます。
これら3つの要因は相互に関係しており、 また3つの要因が揃うことで脂漏性皮膚炎を引き起こすと考えられています。

脂漏性皮膚炎の原因
  • 皮脂腺の分泌物(成分)
  • マラセチア菌
  • 自身の免疫応答

皮脂腺の分泌物(成分)

脂漏性皮膚炎は、皮脂の過剰生産によるものです。
P&Gが発表した研究によると、「フケは皮脂量と強い相関がある」としており、 これは「フケの原因であるマラセチア菌が、皮脂の脂質を栄養とするためである」としています。

しかし、 脂漏性皮膚炎患者の中には、皮脂総量が健常者と同様程度しか分泌しない人がいます。
1988年、フランスで発表された論文「頭皮の脂漏症への生理病理学的アプローチ」によると、 頭皮の皮脂量と脂漏性皮膚炎には明確な相関関係はなかった、と発表しています。

これは、皮脂の「量」以外に、 皮脂の成分が脂漏性皮膚炎に影響していることを示しています。

人の皮脂腺から分泌される成分は、トリグリセリド(中性脂肪)や遊離脂肪酸などですが、 脂漏性皮膚炎患者はマラセチア菌のエサとなる「トリグリセリド」やマラセチアの産生物である「遊離脂肪酸(中性脂肪のうち、グリセリンと結びついていない脂肪酸)」が多いことが原因と考えられています。

詳細はマラセチア菌をご参照下さい。
皮膚表面の脂質成分
成分 割合
トリグリセリド 30~50
遊離脂肪酸(FFA) 15~30
ワックスエステル(WE) 26~30
スクアレン(SQ) 12~20
コレステロールエステル(CE) 3.0~6.0
コレステロール 1.5~2.5
参考:イタリア サンガッリカーノ皮膚科学研究所「皮脂腺の脂質」より

イタリアのサンガッリカーノ皮膚科学研究所の調査によると、 マラセチアは「脂質依存酵母」あるいは「親油性酵母」と呼ばれるように、 「マラセチアが育ちやすい環境である脂質を多く含む環境が脂漏性皮膚炎につながるのでは」と推測しています。

このマラセチアが育ちやすい脂質「トリグリセリド(中性脂肪)」と「遊離脂肪酸」の分泌に影響を与える要因は「食事」がもっとも影響が大きく、中でも「炭水化物・砂糖」「脂質」などによる影響が大きいと考えられています。
詳しくは、フケの原因となる食べ物をご参照下さい。

マラセチア菌

フケに影響するマラセチア菌
  • マラセチアグロボーサ
  • マラセチアレストリクタ
  • マラセチアフルフル

脂漏性皮膚炎に影響するマラセチア

マラセチア菌は現在確認されているだけでも11種類以上存在するものの、 脂漏性皮膚炎に関係があると考えられているのは、 「マラセチアグロボーサ」とする説が最も多く、 次いで、「マラセチアレストリクタ」と「マラセチアフルフル」も影響するとする説を加えた3種類が、 脂漏性皮膚炎の原因とする研究結果が多くなっています。

マラセチアの数の影響

マラセチア菌の数と頭皮のフケの関係は、 「マラセチア菌の数そのものが脂漏性皮膚炎に影響する」とする説と、 「マラセチア菌の数は脂漏性皮膚炎に影響しない」とする説があります。

このマラセチア菌の数が脂漏性皮膚炎に影響するかどうかは未だ完全に答えが出ていないものの、 「マラセチアの数え方」について、 表皮だけとするか、角質層に存在するマラセチアもカウントするかなど、 数え方の統一が必要だと主張する研究者が現れています。

ただし、マラセチアの数が影響しないとする論文内においても、 明確に「真菌薬によってマラセチアの数を減らすことで、フケの症状が治癒あるいは軽減した」と述べているため、 マラセチア菌の数を減らすことは脂漏性皮膚炎の治療に効果があります。

マラセチアの食餌

マラセチア菌の食餌となるのは、皮脂の「トリグリセリド(中性脂肪)」ですが、 より重要なのは、「トリグリセリド(中性脂肪)」を食餌として、 皮脂中の「遊離脂肪酸」が増加することが原因であると考えられています。

マラセチアが増えた時の皮脂
分泌物(%) マラセチアが増えた状態 抗真菌薬治療後
トリグリセリド >35 18 32
遊離脂肪酸 <13 32 16
参考:脂漏性皮膚炎やフケの原因で皮脂腺の活動と頭皮Microfloral代謝の役割より

「脂漏性皮膚炎やフケの原因で皮脂腺の活動と頭皮Microfloral代謝の役割」によると、 「脂漏性皮膚炎患者の皮脂は、遊離脂肪酸が健常者と比較して増加しており、 抗真菌治療薬によりマラセチアの数が減ると、遊離脂肪酸が減り、トリグリセリドが元に戻る」としています。

また、他の脂質(ワックス、スクアレン、コレステロールなど)はほとんど変化がなかった、としています。

言い換えると、マラセチアが、 「トリグリセリド(中性脂肪)」を食餌として、 皮脂中の「遊離脂肪酸」が増加することが脂漏性皮膚炎の原因だと述べています。

自身の免疫応答

マラセチア菌の数が多いにも関わらず、脂漏性皮膚炎を発症しない人がいます。

ある実験によると、 マラセチア菌の数を変えずに、 マラセチアの代謝産物である「オレイン酸」(フケの原因となる遊離脂肪酸)を直接頭皮に投与したところ、 プラセボ群と比較して、「頭皮の剥離=フケ」が増えた人がほとんどであったが、 一部の人はフケの症状に変化がなかった、と述べています。

また、後天的免疫不全症候群(HIV)患者の脂漏性皮膚炎発症率は10~83%(研究によって異なる)で、 一般の脂漏性皮膚炎患者の発症率1~5%と比較すると、非常に高くなっています。

これらに共通する主張として、 いくらマラセチア菌が増えたとしても、 「個人の免疫応答がフケ・脂漏性皮膚炎に影響する」としています。

言い換えると、免疫力の高い人は例えマラセチアによって「遊離脂肪酸」や「オレイン酸」が増えたとしても 脂漏性皮膚炎にはなりづらく、また、脂漏性皮膚炎の重症度を決める1つが個人の免疫力であると考えられます。

まとめと治療

脂漏性皮膚炎の原因は完全には解明されていません。

しかし、多くの研究が「皮脂量(成分)」、「マラセチア菌」、「自己免疫力」と脂漏性皮膚炎の関係を示唆しています。

これらをまとめると、 脂質依存酵母である「マラセチア」は、 皮脂中の「トリグリセリド(中性脂肪)」を「酵素(リパーゼ)」で分解し、脂肪酸に変換します。

この時に作られる不飽和脂肪酸である「アラキドン酸」が炎症や痛みを引き起こし、 「オレイン酸」が頭皮の剥離を、そして「飽和脂肪酸」がマラセチアの増殖に寄与します。

また、マラセチア菌が「遊離脂肪酸」分解時に利用する「酵素(リパーゼ)」が、 頭皮(皮膚)の剥離や炎症をもたらす、とする説もあります。

脂漏性皮膚炎に効果のあるシャンプー一覧、あるいは、フケ治療 皮膚科と薬・処方箋に続きます。


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